長い間、原因不明の体調不良が続いている場合、自分でも気づいていない「食物不耐性」の可能性があります。
現れる症状はさまざまで、疲れやすい、慢性の便秘や下痢、治らない湿疹、偏頭痛、集中力が続かない、無気力…など、自己責任だと突き放されてしまうような症状も含まれます。
オランダとイギリスで行われたアンケートと、その後の追加調査によると、現代人の約20%は何らかの食物不耐症を持っているとされています。
食物不耐症が起きる仕組み
ヒトは食べたものを 消化・分解 吸収 代謝 することで、生命を維持し、成長に必要な成分をつくっています。
分解された栄養素は小腸の粘膜(
肝臓まで運ばれた栄養素はエネルギーとして利用されたり、タンパク質などに合成されて、血液・筋肉・臓器など体の構成成分となります。
消化酵素の不足
食べ物を消化・分解し、吸収を促進するために欠かせないのが「消化酵素」です。食物の栄養素を小腸から吸収できるような形へと変化させる重要な役割を果たしています。
あらゆる「消化酵素」にはあらかじめ「役割」が決まっていて、特定の相手にだけ働きかける特性があります。
食物不耐症の最大の原因は、この「酵素不足」だと考えられています。
「腸」と聞くと、「大腸」を思い浮かべる方が多いかもしれません。 ところが近年、私たちの健康に大きく関わっているのは、大腸よりも「小腸」であることが明らかになってきました。 「小腸」が大事なの?でも「小腸」って何してるんだっけ?![…]
食物不耐症の種類
食物不耐症の原因となる食べ物は、150例以上の報告があります。
食物の種類が多いのに加えて症状もヒトそれぞれなため、原因食物を特定するのはかなり困難と言われています。
グルテン不耐症
小麦に含まれるタンパク質「グルテン」を摂取することで、様々な体調不良に見舞われます。グルテン不耐症は世界的に増加傾向にあり、特に小麦を主食とする欧米では深刻な問題の1つとなっています。
プロテニスプレイヤーのノバク・ジョコビッチ選手が公言しているのもグルテン不耐症で、グルテンフリーによって良い効果が出る人の多くは、グルテン不耐症だと言われています。
ヒトが食べ物を消化するのは「小腸」です。 小腸に「小麦」が入ってきた時に、ざっくり分けると4つのタイプの人が存在します。 1.小麦を消化できる人 2.小麦に含まれるタンパク質に反応し、免疫反応として症状がでる人 3.小麦に含まれるグ[…]
乳糖不耐症
牛乳に含まれる「乳糖(ラクトース)」を体内で分解できないため、牛乳を飲むと下痢をしたり、脂っこいものを食べると湿疹が悪化する、などの症状が代表的です。
グラタンやシチューのように牛乳を加熱した料理なら大丈夫という人もいますが、どんな牛乳も受け付けない人もいます。
- 熟成チーズは完成した段階で乳糖がほぼなくなっているので、乳糖不耐症の方でも食べられる場合が多いそうです。(チェダーチーズ、ゴーダチーズ、青カビチーズなど)
- ヨーグルトは乳糖を消化する乳酸菌を含むので、個人差がありますが時々なら食べても構わないと言われています。
- バターは乳糖が含まれますが約80%が脂肪で、さらに通常は少量しか使わないことから摂っても問題ないと定義されています。
日本人の80%以上が乳糖不耐性、全世界の約75%の人々が成人以降、乳糖を分解する消化酵素「ラクターゼ」が減少すると報告されています。
「低FODMAP食」では避けた方がよい糖質の1つに「乳糖(ラクトース)」を挙げています。
小腸でほとんど吸収されず、細菌のエサとなって急激な発酵を起こす「糖質」を総称してFODMAP(フォドマップ)と呼びます。 F 発酵性の Fementable(ファメンタブル) O オリゴ糖 Oligosaccharide[…]
レクチン不耐症
「レクチン」はタンパク質の一種で「糖鎖に結合活性を示すタンパク質(糖鎖結合タンパク質)」の総称です。
実はグルテンも「レクチン」の一部で、さまざまな種類の「レクチン」がほぼ全ての動植物に何らかの形で含まれています。
レクチンは全粒穀物、豆類、種子類に多く含まれ、特に注意が必要な食品として下記が挙げられています。
- 全粒粉で作られたパン
- 玄米
- インゲン豆
- ピーナッツとカシューナッツ
- じゃがいも
- トマト
近年、アメリカ人医師の著書「食のパラドックス 」が欧米でベストセラーになり「レクチンによって腸が傷つけられている」という新しい見解が注目されました。
日本でもレクチン不耐症への関心が一部で高まっています。
フルクトース不耐症
「フルクトース」はリンゴなど木に成る果実・ベリー類・ハチミツ・メロン・ある種の根菜に多量に含まれている「糖」の一種です。砂糖の代替品として使用される「ソルビトール」にも含まれます。
フルクトース不耐症は遺伝性が強く、遺伝性のフルクトース不耐症は「糖代謝異常症」です。日本人の約4割はフルクトース不耐症だと言われています。
フルクトース不耐症の方は、わずかな量の「フルクトース」や「ショ糖」を摂取するだけで血糖値が低下し、発汗や錯乱が起こります。
また「フルクトース」を含む食べものを摂取し続けると、腎臓や肝臓が傷害されて黄疸・嘔吐・精神遅滞・痙攣発作などが起こり、最悪死亡の危険もあります。
「低FODMAP食」では避けた方がよい糖質の1つに「フルクトース」を挙げています。
小腸でほとんど吸収されず、細菌のエサとなって急激な発酵を起こす「糖質」を総称してFODMAP(フォドマップ)と呼びます。 F 発酵性の Fementable(ファメンタブル) O オリゴ糖 Oligosaccharide[…]
アルコール(ADH)不耐症
注射時などの消毒用アルコールで皮膚が発赤する人は、アルコール(ADH)不耐症の可能性が高いです。アルコールを体質的に受け付けない人を指し、ごく少量のアルコールで激しい頭痛や胃腸症状を示します。
日本人の約5%が遺伝的にアルコールを分解するADH(アルコール脱水素酵素)を持たないと言われ、これは他国と比べて多いようです。
添加物への拒否反応
硫黄にも通じますが、添加物に対する拒否反応も食物不耐性と定義されています。
食物添加物・合成着色料・保存料・乳化剤・安定剤・充填剤・香味料・人工甘味料に対する反応は、健康に大きな影響をおよぼす可能性があります。添加物の中には、安息香酸・トラガカント・エチレンジアミン4酢酸・アスパルテームなど山のように種類があります。
日本は特に、食品添加物が多い国として知られています。
こういった添加物に敏感な場合、湿疹・頭痛・呼吸困難・認識機能障害・疲労などの免疫システムを介在しない症状が現れる場合があるので注意が必要です。
代表的な食物不耐症の食品一覧
食物不耐症は、別名「非アレルギー性食物過敏症」とも呼ばれます。
グルテン | 小麦・大麦・もち麦・押麦・ライ麦・セモリナ粉など |
乳 糖 (ラクトース) | 牛乳・ヨーグルト・アイスクリーム・バター・チーズ・加工食品など |
レクチン | 穀物(小麦・玄米・トウモロコシなど)・豆類(特に大豆)・ナス科やカボチャ類の野菜・ナッツ類など |
果 糖 (フルクトース) | ハチミツ・りんご・梨・ぶどう・バナナ・さくらんぼ・すいかなど ※清涼飲料や菓子類などの甘味の強い加工食品にも多く含まれる |
アルコール (ADH) | 酒類全般 |
カフェイン | 珈琲・紅茶・緑茶など |
カカオ | チョコレート・ココアなど |
クエン酸 | 野菜・果物・食品添加物 |
硫 黄 | 保存剤、防腐剤、漂白剤、発色剤、酸化防止剤として食品添加物に多い ※サラダバーにはこの種の添加物が多く使用されている(サラダバー症候群) |
卵 | 卵の白身・かまぼこ・はんぺんなど※練り物系の惣菜などに含まれることが多い |
ヒスタミン | 赤身の魚(カツオ、マグロ、アジ、ブリ、サンマ、イワシなど)・大豆製品・ほうれん草・里芋、ナス、筍、トマト・とうもろこし・チョコレート・ココア・コーヒーなど |
食物不耐症の主な症状
代謝性疾患による食物不耐症の症状は、多岐にわたります。
原因不明の慢性的な疲労感も症状の1つですし、下痢や便秘も良く知られています。
- 慢性的な疲労感
- 湿疹・皮膚の乾燥
- 頭痛(片頭痛)
- 慢性的な下痢、もしくは便秘
- お腹の張りやゴロゴロする(膨満感)
- 原因不明の腹痛
- ガス(おなら)が出やすい
- 悪臭を放つ便
- 慢性的な咳や喘息
- 気管支炎
- 鼻づまり
- 繰り返す副鼻腔炎(慢性鼻炎)
- 胃痛・胸焼け
- 発汗・動悸・呼吸困難 etc…
食物不耐症の検査方法
食物不耐症の原因食物を正確につきとめるのは難しく、IgG抗体検査などを受けても数値と症状にバラつきがあるので、必ずしも原因を特定できるとは限りません。
IgG抗体検査
一部のクリニックでは「食物不耐症」の原因特定に「食物抗原特異的IgG抗体検査」を行っています。
ただし、IgG抗体は健常な人にも存在する抗体で、単に食物の摂取量に比例しているだけだとの意見から、公式には否定されている診断方法です。(専門家の間でも賛否が大きく分かれています。)
「IgG抗体検査」は保険が適用されないため、費用はおおよそ3~4万円程度かかります。
IgG抗体検査について
長年、原因不明の体調不良に苦しんできた方がこの検査によって原因を特定し、それらを食べないこと(除去)で体調が回復するケースは実際にあります。
※この検査結果だけを元に「食物除去」を行うと、問題のない食べ物まで除去することとなり、将来的な健康被害を招く恐れがあるので注意してください。
特にインターネット等で手軽にできる検査キットを、「個人で使用」することには多くの医師が注意喚起しています。
バイ・ディジタルO-リングテスト(BDORT)
アメリカで知的特許を取得し、世界中の医療に応用されている補助的医学診断法です。専門の医師、もしくはカイロプラクティック師の指示のもとで行います。
バイ・ディジタルO-リングテスト(BDORT)とは、筋の緊張(トーヌス)を利用して生体情報を感知する検査手技である。「生体そのものが極めて敏感なセンサーで、毒物を近づけたり、体に合わない薬剤を手に持たせたりすると、筋の緊張は低下し、逆に有効な薬剤では緊張が良好に保たれる」という原理に基づいている。
簡単に説明すると、片手の指でO-リングを作り、反対側の手に問題となる食物を乗せて、筋力に低下がみられないかを調べます。乗せる前より安易にO-リングが開いた場合、筋力が低下した=その食物は体に合わない「陽性」と判断します。
「体の異常があったり、体に合わないものであったりすると、筋力が弱まってO-リングが開く」という考え方に基づいています。
食物不耐症の治療法
食物不耐症は今のところ、該当する食物を除去する(食べない)以外に有効な治療法はありません。
食物不耐症は食物アレルギーではないので、摂取したからといって命の危険にさらされることはなく、自分の体調と相談しながら食べる/食べないを判断することになります。
低FODMAP食
近年、食物不耐症にも効果がある食事法として「低FODMAP食」が注目されています。
本来、腸に良いとされている食物(発酵食品や食物繊維など)が、実はお腹に不調を抱える人にとっては悪影響だった!という衝撃の内容ですが、きちんとエビデンスに基づいた食事療法で、長年の不調から解放された報告が多数あがっています。
日々の食事を見直しても改善が見られない場合、「低FODMAP食」を試してみるのも良いかもしれません。
「低FODMAP食」がお腹の悩みを抱える人に有効な食事法として、世界的に注目されています。 便秘と下痢を繰り返す 食後にお腹がゴロゴロ鳴る オナラが出すぎて困っている…などなど 「低FODMAP食」はオーストラリア[…]
食物アレルギーと食物不耐症の違い
ややこしいのですが「食物不耐症」という言葉には、「広義同じ言葉がさす意味の範囲に「広さ」の違いがあるとき、広い方の意味の食物不耐症」と「狭義同じ言葉がさす意味の範囲に「広さ」の違いがあるとき、狭い方の意味の食物不耐症」、2つの意味があります。
広義の食物不耐症
食べ物によって何らか(病的)症状が出る場合を総合的に示します。
「食物アレルギー」と「狭義の食物不耐症」双方を意味しています。
狭義の食物不耐症
狭義の食物不耐症は、消化の異常を原因とする「代謝性疾患」や「仮性アレルゲン」を示す呼び名で、食物アレルギーとは明確に区別されています。
乳糖不耐症やアルコール不耐症が有名ですが、魚を食べておきる「ヒスタミン中毒」や山芋に触れた手や口の周りが痒くなる症状等も含みます。