グルテンフリーが世界的に広まった背景には、「セリアック病」患者の急増が挙げられます。
「セリアック病」は欧米を中心に患者数が増加している自己免疫疾患で、「セリアック病」になると一生涯、グルテンフリーの食生活が必須となります。
以前はアジア人には極めて稀な病気だと言われていましたが、食生活の欧米化によって、現在は日本にも約6万人の患者がいると推定されています。
日本ではまだまだ認知度の低さから検査を受ける人も少ないため、未だに稀ということになっているのかも(?)しれません。
セリアック病とは
セリアック病は、グルテンの断片が原因となる自己免疫疾患です。
セリアック病の人が小麦・ライ麦・大麦などの穀物を摂取すると、異物から身体を守る以上に「体の免疫システム」が働き、外敵の侵入を防御する役割を持つ小腸の内壁が攻撃されて腹痛や下痢が起こります。
かつては乳幼児の病気だと考えられていましたが、近年では発病患者の半数以上が成人だと判っています。離乳後どの年齢でも発症することがあり、成人以降の発症ピークは30~50歳とされています。
症状が現れてから診断が出るまでの期間は平均11年と非常に長く、過敏性腸症候群の中にセリアック病の患者が隠れている可能性が指摘されています。
セリアック病の発症要因
セリアック病は遺伝的な要因が大きいとされ、患者の近親者では約10~20%がセリアック病を発症します。
ただし近年では、発症を遺伝的要因だけで説明できないことも多く、まだ解明されていない遺伝子や環境要因も影響していると言われています。
また「遺伝的素因のある子供たちに限っては、5歳までのグルテン摂取量とセリアック病の発症、およびセリアック病自己抗体の発現には関連がみられるようだ」とスウェーデン・ルンド大学から研究報告 が出ましたが、グルテン摂取量の正確さが不確かであると指摘されています。
グルテン以外の原因
セリアック病を引き起こす「グルテン」は、厳密には小麦にのみ含まれるタンパク質です。
ただしグルテンのプロラミン物質「グリアジン」と成分が近く、セリアック病を引き起こす、または症状を悪化させる可能性があるタンパク質として下記の3点が知られています。
- 大麦のHordein(ホルデイン)
- トウモロコシのzein(ゼイン)
- ライ麦のSecalin(セカリン)
セリアック病の方がこれらを摂取すると、小麦を食べたときと同じような症状が現れる人が多いと報告されています。
代表的な症状
症状は患者間で大きく異なり、症状が軽い場合は自分がセリアック病と気づかない人も多いようです。
無自覚の人を含め、多くの人に共通するのが「慢性的な疲労」で、これは小腸の損傷により栄養を十分に吸収できないことが原因だと考えられています。
患者の約43%が慢性の下痢、約20%は便秘症状を訴え、約50%の患者に体重減少の傾向がみられますが、逆に肥満も約10%確認されています。
- 慢性の下痢/便秘
- 腹痛/腹部膨満感
- 異常な数のガス(おなら)
- 悪臭を放つ便(脂肪便)
- 体重の急激な減少/増加
- 慢性疲労
- 貧血(赤血球数の低下)
- 骨/関節の痛み
- 骨粗鬆症/骨減少症
- 筋肉の痙攣
- てんかん症状
- 口腔内の痛み
- 痛み/かゆみを伴う湿疹(疱疹状皮膚炎)
- 歯の変色/エナメル質の欠損
- ビタミン欠乏
- 無月経/不妊/習慣流産
- 低身長/成長障害
他の病気と共通する症状がとても多く、さらに無症状の患者も存在するため、診断確定までに時間がかかる場合が多いようです。
セリアック病と似た疾患
セリアック病と症状が共通する、紛らわしい疾患は複数あります。
- ディスペプシア
- 過敏性腸症候群(IBS)
- 炎症性腸疾患(IBD)
- 熱帯性スプルー
- 便秘症
- 慢性疲労
- 様々な神経疾患など
※これらの一部はセリアック病を合併することもあります。
セリアック病の増加
セリアック病は他の疾患と誤診されることがとても多かったため、2000年代までは非常に稀な病気だと考えられてきました。
ところが近年、検査技術の向上によって世界各地域で「セリアック病」と診断される患者数が増加し、主に欧米やヨーロッパで大きな社会問題として注目されるようになりました。
セリアック病の治療法は唯一「グルテンフリーの食生活を一生涯続けること」であるため、グルテンフリー食品への要望が高まり、市場も拡大しました。
2020年現在、世界のセリアック病の有症率はおおよそ0.6%~1.0%程度、非ヒスパニック系白人に多く、欧米では約1000万人、だいたい100~150人に1人くらいの割合で患者が存在すると推計されています。
ただしアメリカの医療機関の調査によると、セリアック病を有する人のうち、およそ83%が未診断で、実際にはもっと多くの患者が存在すると考えられています。
セリアック病の発生率が高い疾患
これまでの研究から、1型糖尿病・自己免疫性甲状腺疾患のような他の自己免疫疾患病と「セリアック病」には関連があることも分かってきました。
- ダウン症候群 (5~12%)
- IgA 欠乏症 (2~10%)
- 1型糖尿病 (~6%)
- シェーグレン症候群 (~5%)
- 甲状腺炎=バセドウ病・橋本病 (2~4%)
- ウィリアムス症候群 (3~10%)
- ターナー症候群 (~3%)
※上記の疾患を患っている方が、セリアック病を合併する割合を示しています。
小腸のリンパ腫について
セリアック病を長期間(一般的には20~40年以上)患っている方の約6~8%が小腸のリンパ腫を発症しています。
他にも消化管のがんの発生リスクが高まると考えられていますが、グルテン除去食を徹底することで、がんの発生リスクは著しく低下することが報告されています。
治療方法
今のところ薬剤による治療法はなく、グルテンフリー(グルテン除去食)の徹底が唯一の治療法とされています。
厳格なグルテン除去食は食物繊維やビタミンB群が不足する場合が多いので、ほとんどの患者さんにビタミン(葉酸など)とミネラル(鉄など)を補充するサプリメントが与えられます。
一度発症すると完治することはなく、少量のグルテンを摂取しただけで症状が出ることもあるため、生涯にわたってグルテンフリーを継続する必要があります。
- 一生涯グルテンフリーを継続する必要がある
- 栄養素の欠乏を補う工夫が必要
- グルテンフリーを続けていれば、大半の人で症状は生じない
※グルテンフリーを継続して数ヶ月で体調が戻る人が多いようですが、イタリアの大学で行われた調査によると、小腸そのものの機能が回復するとは限らないそうです。
グルテンを摂取し続けた場合
セリアック病の方が治療を受けずにグルテンを摂取し続けた場合、よくある合併症として、難治性スルー・腸疾患関連T細胞リンパ腫・中咽頭がん・食道がん・小腸がん・潰瘍性空腸回腸炎・膠原性スプルが挙げられています。
検査方法
セリアック病の検査は専門医や総合病院にて、主に「血液検査」と「内視鏡検査」の2つが行われます。
免疫グロブリンA(tTG-IgA)の血液検査でほぼ判定できますが、稀に健康な人でも陽性になることがあるため、世界的には小腸生検との併用が推奨されています。しかし腸の組織を実際に採取するのはリスクを伴い、実施が困難な場合もあるようです。
グルテンフリーを行っていると検査に影響が出ることがあるので、検査を受けるまでは通常の食事を続けるように指導を受けます。
- グルテンおよびグリアジン特異的IgA・IgG 抗体検査
- 組織トランスグルタミナーゼ(tTG)IgA 検査
- 小腸生検
- 分子遺伝学的検査(※)
こうした検査に加えて、グルテン除去食で臨床的/組織学的な改善が認められたとき、その他の合併症などの情報をもとにセリアック病の診断がなされます。
医師の診断を受けて治療を始めたら、数か月後に再度セリアック病検査を受ける必要があります。
セリアック病の診断確定に役立てるため、医師は小腸の粘膜から組織サンプルを採取して顕微鏡で調べます。
生検で小腸の絨毛の平坦化が確認された場合や、グルテンを含む食物の摂取をやめた後に小腸粘膜に大幅な改善が認められた場合に診断が確定します。
分子遺伝学的検査(※)について
特定の遺伝子変異がない人がセリアック病を発症する可能性は非常に低いことから、分子遺伝学的検査を行うことがあります。
分子遺伝学的検査で HLA ハプロタイプ( DQ2 もしくは DQ8 )を有し、抗体は陰性である無症状の親族は、セリアック病関連抗体上昇のスクリーニングのため免疫グロブリンA(tTG-IgA)検査を3~5年おきに施行すべきと指摘されています。
ただし、それらの遺伝子変異はセリアック病ではない人の多くでもみられることから、この検査で陽性と判定されても、セリアック病の診断が確定するわけではありません。
ヒト白血球型抗原(HLA)クラスⅡ遺伝子 HLA-DQA1 および HLA-DQB1 の特異的な変異が存在するかを検査します。体内に侵入した異物を認識して排除を促す白血球には「HLA(ヒト白血球抗原)」で示される型があり、両親から遺伝的に受け継いでいます。
セリアック病は、HLAの型が DQ2分子やDQ-8陽性というタイプを持つ人に多く発症することが分かっていますが、一般人口の30%はどちらかを有し、その中でセリアック病を発症するのはわずか3%であるため、診断の決め手とはなりません。