今では日本人の2人に1人が、花粉症やダニアレルギーなど何かしらのアレルギーを持っていることが分かっています。
「食物アレルギー」も増加傾向にあり、特にアナキラフィシーショックを起こす患者さんの増加が懸念されています。
アレルギーに関しては様々な研究が行われていますが、残念ながら「完全に治癒したり、発症を予防する方法」は未だに確立していません。
アレルギー大学で学んだ知識をベースに、現在の食物アレルギーに関する最新情報をまとめました。
食物アレルギーの現状
少し古い資料になりますが、厚生労働省が2009年に発表した資料「食物アレルギー 」の冒頭に下記の記述があります。
今から50年前には日本に「アレルギー」は、ほとんどありませんでしたが、現在では国民の3人に1人が何らかのアレルギーを持っているといわれています。欧米やわが国などの先進国で非常に大きな問題となっており、工業化・文明化と「アレルギー」は密接に関係があるようです。(略)食物アレルギーは1才未満の乳児で最も多く発症しますが、厚生労働省の調査によると小児から成人まで幅広く認められています。
食物アレルギーは乳児の有症率が高い
現在、日本では乳児(0~2歳)の約10人に1人が食物アレルギーを発症しています。
ただし乳児期に発症した食物アレルギーは年齢とともに治っていくことが多く、3歳までに約5割、6歳までに約8割の子どもがアレルギーを克服したと報告があります。
食物アレルギーは年齢とともに減少していきますが、小・中・高等学校児童の約4.5%(約45万人)、20歳以上の成人にも約9%(約997万人)に食物アレルギーが確認されています。
食物アレルギーの原因
アレルギーの原因となる物質は「アレルゲン」もしくは「抗原」と呼ばれます。
アレルゲンの主な成分が「タンパク質」であることまでは分かっています。
日本における三大アレルゲンは「卵・乳製品・小麦」の3つです。
アレルゲンは人によってそれぞれ異なり、現れる症状もさまざまです。残念なことに、なぜ特定のヒトにだけアレルギー症状が起きるのか?は現在も判明していません。
- ◆ 原因となる食物リストを見る
-
鶏卵 加熱によってアレルギー性が大きく低下するのが特徴の1つです。ゆで卵に反応する場合でも、クッキーやフライの衣は食べられることがあります。卵を大量摂取した母親の母乳を飲んで赤ちゃんに症状が出ることもあるようです。 牛乳 少量であれば摂取可能か?の判断がとても重要です。少量摂取が可能であればチーズやバターは大丈夫な場合もありますが、重症の場合は多くの食品/加工品を避ける必要があります。新生児~乳児早期に重症の嘔吐や下痢・血便をおこす「新生児・乳児消化管アレルギー」は、牛乳に対するリンパ球の反応により症状が起こります。 小麦 小麦アレルギーの人は、大麦やライ麦など他の麦類に反応することがあります。約7割の人は「グルテン」に対する抗体を持ちますが、約3割はグルテン以外のタンパク質に反応します。小麦は高温で焼かれても、アレルゲン性が低下することはありません。また小麦は思春期の「食物依存性運動誘発アナフィラキシー」の原因食品として最も多い食物です。 大豆 大豆アレルギーの人でも大半は、大豆を原料にした調味料(味噌・しょうゆ・油)は摂取可能です。大豆に含まれる「PR-10」に反応する人は、モヤシや豆乳を食べて全身症状が誘発されることがあります。納豆は遅発型のアナフィラキシーの原因になり、クラゲ刺傷との関係が報告されています。 そば そばアレルギーは一度発症すると治りにくいと考えられていますが、乳幼児期に発症した場合は摂取可能になったとの報告もあります。蕎麦を打つときに小麦粉を使用するため、小麦アレルギーの人は注意が必要です。アナフィラキシーショックを起こしやすい食品としても知られます。 ピーナッツ アナフィラキシーショックを起こしやすい食品として知られます。近年、幼い子にも増えているので注意が必要です。欧米ではアナフィラキシーショックの原因第1位、日本でも第4位です。「ナッツ」の文字が含まれますが、ピーナッツは木の実ではなく大豆と同じマメ科の植物です。 ナッツ類 アーモンド・クルミ・カシューナッツなど、木の実のアレルギーが顕著に増加しています。内訳はクルミが最も多く(62.9%)、カシューナッツ(20.6%)、アーモンド(5.3%)と続きます。 ゴマ IgE血液検査との完成性が不明確ですが、近年増加しているアレルギーの1つです。口腔症状の軽症例から、アナフィラキシーに至る重症例まで存在し、粒ゴマ・ごま油は摂取可能でも、すりゴマ・練ゴマ(ゴマペースト)では強い症状が誘発される場合があります。ゴマ油を日常的に使用していると、アレルギーを起こしやすくなると言われています。 魚類 魚アレルギーは、複数種類の魚に反応する人が多く、特にアカウオのような白身魚で強い症状が出やすいようです(個人差あります)。※俗に「青背の魚にアレルギーが多い」と言われていますが、大半はヒスタミン中毒(食物不耐症)や酸化した魚の油が原因で、食物アレルギーとは異なります。 魚卵 魚卵の中では「イクラ」が最も強い症状を生じることが分かっています。生や加熱不十分のタラコ・他の魚卵でも症状がみられます。卵アレルギーをもつ人は魚卵にも注意が必要です。 アニサキス サバ・アジ・サンマ・カツオ・イワシ・サケ・イカなどの魚介類には、アニサキスという長さ2~3cm、幅0.5~1mmの糸状の寄生虫が着いていることがあります。過去にアニサキスが寄生した魚を食べて食中毒を起こした人が、再度アニサキスを食べるとアレルギー症状がおきます。 エビ 多くは幼児期以降に発症し、耐性獲得はあまり期待できません。半数以上に口腔内の症状が現れます。エビアレルギーの約65%は、カニにも交差反応を示します。甲殻類は「食物依存性運動誘発アナフィラキシー」の代表的な原因食品でもあります。 肉類 動物の肉はヒトの筋肉とタンパク質の構造が似ているので異物とみなされにくく、さらに加熱調理した肉はアレルギー性が低下するので、アレルゲンになることはほとんどありません。特殊なアレルギーとして、猫アレルギーの人に豚肉アレルギー、マダニ咬傷による獣肉アレルギーの報告があります。 果物&野菜 バラ科 リンゴ・さくらんぼ・あんず・梨・桃・いちご・ セリ科 セロリ・にんじん マタタビ科 キウイフルーツ ブドウ科 ぶどう ミカン科 オレンジ・レモン・グレープフルーツ ナス科 トマト・ジャガイモ・ナス・ピーマン・トウガラシ・シシトウ キク科 レタス アブラナ科 キャベツ ウリ科 メロン・スイカ・カボチャ・キュウリ ユリ科 にんにく バショウ科 バナナ
年齢別・食物アレルギーの特徴
乳児期に発症したアレルギーは成長によって克服することが多いです。
一方で、幼児期以降に発症することの多い食物は、治りにくい(耐性を得にくい)と言われます。(※主にピーナッツ・そば・魚類・果物類など。現在は成人以降の小麦アレルギーも増えています。)
乳児期(0-2歳)
2歳までの食物アレルギーの原因は約9割が卵(鶏卵)・牛乳・小麦です。
数年前まで「離乳食はスタートを遅らせるとアレルギー防止に効果的」と考えられていましたが、2019年「離乳食の開始時期が遅いと、逆にアレルギーのリスクが高まる」との見解に変更されました。
さらに一部から「離乳食の開始時期が遅れると、2歳になったときのアトピーと喘息の頻度が高い」との報告もあり、離乳食は遅くても生後6か月以内に開始するよう指導されています。
幼児期(3-6歳)
乳児期に発症した食物アレルギーは、約8割が小学校入学時までに自然寛解(症状なく摂取できる状態)し、一般的に大豆>小麦>牛乳>卵の順で良くなっていきます。
一方で、4歳以降にそれまで出なかった食物アレルギーが新たに発現する子もいます。また魚類・魚卵・ピーナッツ・木の実のアレルギーも増えてきます。
6歳を過ぎて耐性が獲得できていないアレルギーは、除去を継続しても完治は難しいと考えられていて、一生涯食べられない(飲めない)患者さんも約1割います。特にアナフィラキシー症状を引き起こすものは、耐性獲得しにくい(治りにくい)と考えられています。
最近はそのような方への「経口免疫療法」という治療の研究が進んでいますが、リスクや負担が大きいうえ治療終了後にアレルギー症状が再発する例も出ているため、一般診療として「経口免疫療法」は推奨されていません。
学童期(7-17歳)
卵(鶏卵)・牛乳・小麦のアレルギーが減る一方で、甲殻類(エビ/カニ)・そば・ゴマ・果物などのアレルギーが増えてきます。
「花粉食物アレルギー」とも呼ばれる「口腔アレルギー症候群」を発症する子も増える傾向にあり、花粉症との関連性が考えられています。「口腔アレルギー症候群」は生の果物に反応するのが特徴で、調理・加熱したものには通常反応しません。
学校生活(給食・調理実習・校外学習・修学旅行など)で初めて食べた食物に対してアレルギーを発症する例もあるので、給食よりも前に家庭で食べておく、正確な診断情報を学校に提出するなどの対処が求められています。
- ◆ 年齢別のアレルゲンTOP5を見る
-
0歳 1-2歳 3-6歳 7-17歳 18歳~ 1 鶏卵55.3% 鶏卵38.3% 牛乳20.6% 鶏卵16.4% 小麦19.1% 2 牛乳27.6% 牛乳23.1% 鶏卵18.9% 牛乳15.7% 甲殻類15.7% 3 小麦12.2% 小麦8.3% 木の実類18.3% 木の実類12.9% 魚類10.0% 4 木の実類7.9% 小麦10.8% 果物類/落花生10.5% 果物類8.7% 5 魚卵7.4% 落花生10.8% 小麦10.5% 大豆7.4% 小計 95.1% 85.0% 79.3% 66.0% 60.9% 出所)2018年度 食物アレルギーに関連する商品表示に関する調査研究事業報告書
(独立行政法人国立病院機構相模原病院)- 近年の傾向として「木の実」の増加が特徴的です。内訳はクルミ(62.9%)、カシューナッツ(20.6%)、アーモンド(5.3%)と続きます。
- 18歳以上群で大豆アレルギーの増加も特筆され、特に「豆乳」へのアレルギー報告が増えています。
食物アレルギーが起きる仕組み
ヒトの体には、外敵から自分の身を守るために「免疫ウィルスや細菌から体を守るために働く防御システムのこと。ヒトがもつ免疫には「自然免疫」と「獲得免疫」の2種類ある。」という仕組みがあります。
「免疫」は長い年月をかけて、外敵のみを攻撃するように進化してきました。
ところが近年、本来は「外敵ではないもの」に対して「免疫」が過剰に働き、自分の体に悪影響がでてしまう現象があらわれました。この状態が「アレルギー」です。
アトピー性皮膚炎との関連性
約10年前まで「アトピー性皮膚炎を発症するのは、食物アレルギーがあるからだ」と考えられていました。
ですが近年、皮膚のバリア機能が低下していると皮膚から食物が体内に侵入し、食べていなくても食物アレルギーを発症する「経皮感作」という仕組みが分かってきました。
アトピー性皮膚炎の赤ちゃんが高い確率で食物アレルギーを合併するのは、主に「経皮感作」が原因だと考えられています。
そのため乳児の食物アレルギーを防ぐにはスキンケアが重要であるのと同時に、食物アレルギーを治すためには皮膚のバリア機能を回復させる治療が優先される傾向があります。
食物アレルギーの2つのタイプ
食物アレルギーには主に2つのメカニズムがあります
- 即時型アレルギー(IgE依存型)
- 遅延型アレルギー(IgE非依存型)
即時型アレルギー
即時型アレルギーの人がアレルゲンを摂取すると、数分から15分(遅くても2時間以内)に典型的なアレルギー症状(かゆみ・
- ◆ 即時型アレルギーの主な症状を見る
-
皮膚症状 かゆみ、蕁麻疹、むくみ、発赤、湿疹 消化器症状 腹痛、下痢、吐き気、嘔吐、血便、 呼吸器症状 くしゃみ、鼻汁、鼻閉、咳、喘鳴、呼吸困難 粘膜症状 結膜充血、むくみ、流涙、咽頭や舌の違和感 循環器症状 不整脈、手足が冷たい、唇や爪が青白い(チアノーゼ)、血圧低下 神経症状 頭痛、元気がない、ぐったり、意識障害 - 約90%の人に皮膚症状(
蕁麻疹 ・かゆみ等)が出ますが、皮膚症状が全く出ない人もいます。 - 原因食物に触れたり、粉末を吸い込むだけでも症状が出る場合があります。
- 症状の出現は個人差があり、アレルゲンによっても様々です。
- 約90%の人に皮膚症状(
重篤になると複数のアレルギー症状が全身に短時間で起きて、命を脅かす危険もあります。
食物アレルギーで何より怖いのが、アナフィラキシーショックです。 自分のカラダに合わない食物(アレルゲン)を摂取したことで、意識障害や血圧低下を伴う強いアレルギー症状がおき、最悪の場合は命をおとします。 また、アレルゲンを摂取した[…]
遅延型アレルギー
「遅延型アレルギー」は食品に反応するリンパ球の働きで起きる症状で、即時型アレルギーとは異なりIgE抗体が関係しません。
- ◆ 遅延型アレルギーの主な症状を見る
-
皮膚症状 にきび、肌荒れ、アトピー性皮膚炎、発汗過多など 呼吸器症状 慢性中耳炎、慢性副鼻腔炎、慢性鼻炎、口内炎など 消化器症状 便秘、下痢、腹痛、消化不良、腹部膨満、過敏性腸症候群など 循環器症状 喘息、動悸、不整脈、胸痛など 泌尿器症状 頻尿、尿意切迫、夜尿症(小児)など 神経症状 極端な感情の起伏、不安・焦燥感、抑うつ気分、睡眠障害、集中力低下、活動過多と不機嫌(小児)など その他 頭痛、むくみ、体重増加、血圧異常、慢性疲労、倦怠感など
遅延型アレルギーと即時型アレルギーの症状の最大の違いは 「遅れて発症する」「重篤な症状は出にくい」の2点です。
特定の食品を食べた数時間後、もしくは翌日や翌々日に湿疹が出たり、体調を崩すなどの症状が度々みられる場合に「遅延型アレルギー」の可能性を考えます。
「遅延型アレルギー」の診断について
食品に反応するリンパ球の働きを確認するには、血液からリンパ球を取りだしてアレルゲンと混ぜ合わせ、3日から7日間培養して反応を見る「リンパ球幼弱化試験」を行います。
ただし2020年現在、この検査は一部の大学病院などで「研究」として行われているのみで一般の臨床検査はできません。食べたものと症状の因果関係を確認する方法は、食物負荷試験を繰り返し行うしかないようです。
IgG抗体検査について
一部のクリニックでは「遅延型アレルギー」の原因特定に「食物抗原特異的 IgG抗体検査」を行っています。
この検査は公式には否定されている診断方法で、専門家の間でも賛否が大きく分かれています。
「IgG抗体検査」は保険が適用されないため、費用はおおよそ3~4万円程度かかります。
食物抗原特異的 IgG 抗体は食物アレルギーのない健常な人にも存在する抗体であるため、この検査結果を根拠に原因食品を特定して食物除去を指導すると、原因ではない食品まで除去することになり、場合によっては健康被害を招く恐れがあるからです。
食物不耐症との違い
遅延型アレルギーとよく似た症状がでる疾患に「食物不耐症」があります。
遅延型食物アレルギー | 食物不耐症(狭義) | |
リンパ球の免役反応 | 原 因 | 酵素不足などの消化異常が原因 |
少量でも発症する場合がある | 摂取量 | 少量だと発症しない場合が多い |
遅れて発症(数時間後〜数日後) | 時 間 | 翌日以降の発症が多い |
生命を脅かす症状は出にくい | 重篤化 | 生命を脅かす症状は出ない |
即時型アレルギーがIgE抗体、遅延型アレルギーがリンパ球の働きで起きるのに対し、「食物不耐症」は消化器系でおこる反応です。
抗体やリンパ球など免疫力が関与しないため、食物アレルギーとは明確に区別されています。
長い間、原因不明の体調不良が続いている場合、自分でも気づいていない「食物不耐性」の可能性があります。 現れる症状はさまざまで、疲れやすい、慢性の便秘や下痢、治らない湿疹、偏頭痛、集中力が続かない、無気力…など、自己責任だと突き放されて[…]
食物アレルギーの治療について
厚生労働科学研究班発行「食物アレルギーの診療の手引き2017 」に基づき、治療の原則は「正しい診断に基づいた必要最小限の原因食物を除去する」です。
以前はアレルゲンの「完全除去+代替食」が主な治療方針でしたが、近年「最小限の除去」に変更されました。
完全除去を続けるよりも、少量でも食べていくほうが食べられる範囲を広げていける可能性が高いことが分かってきたからです。
ただし自己判断でアレルゲンを口にすることはアナフィラキシーなど危険を伴うので、必ず専門医の指導の元で行います。
- 正しい判断に基づいた必要最低限の除去食
- 安全の確保
- 栄養面への配慮
- 患児および家族のQOL(生活の質)の維持
経口免疫療法
経口免疫療法は、標準的治療として確立されたものではなく「研究段階の治療法」です。
食物アレルギー診療ガイドライン2016 には「一般診療として推奨しない」と明示され、実施する場合には倫理委員会の承認を得るように勧告されています。
自然に治っていく可能性の低い重篤な患者(およそ5歳以上)を対象に、食物アレルギーを熟知した専門医が、症状が出たときの救急対応に万全を期した上で臨床研究として取り組むように位置づけられ、深刻な事故を起こさないことが最重要課題とされています。
- まず、ごく微量を食べてみる負荷試験を行う
- 症状を伴わずに食べられる量の上限(閾値)を確かめる
- 最初に食べ始める量を決定する
- 毎日食べ続け、食べる量をゆるやかに引き上げていく
- 外来でゆっくり増やしていく「緩徐法」、1カ月弱入院をして一気に増やす「急速法」があります。
- 目標の設定方法や量を引き上げていくスピードは医療機関によって異なります。
よくある間違い(注意点)
食後に異変が現れても、必ずしも食物アレルギーとは限りません!
例えば腹痛・下痢・嘔吐・発熱などの症状が現れる「食中毒」は、すべてのヒトに起こる現象で食物アレルギーではありません。